2007 SPARTATHLON 
   (スパルタスロン ΣΠΑΡΤΑΘΑΟΝ)

 2007/9/28〜29 ギリシャ・アテネ→スパルタ (245.3km 制限時間36時間)
  結果: 28時間36分 8位              天気: 快晴

 大会公式HP : http://www.spartathlon.gr/ (ギリシャ語、英語)
 日本語HP : http://www.r-wellness.com/spartathlon/index.html

 写真集を作りました こちら

スパルタスロンとは・・・

 ギリシャのアテネからスパルタまでの245.3kmを制限時間36時間以内に走る大会で、多くのランナーの憧れの大会でもあります。今年2007年の出走者は約330人、そのうち日本人が80人くらいです。大会について詳しくは過去の完走記や大会HPをご覧ください。

今年のスパルタスロンへ向けて・・・

 これまでに一昨年、去年と2回参加しているけど、その結果は29時間台の9位、27時間台の7位ときている。去年はもう少しできるのではないかと思っていたけど、いまいちの結果だった。そこで今年は去年の記録を上回り、より満足できる走りをしたいと思っていた。
 この大会は9月4週目。ところが、運良く9月1週目の100kmワールドカップに日本代表として選ばれたため、夏の間は100kmに向けての体作りを進めてきた。100kmを走る体と250kmを走る体は違うと思う。100kmをワールドカップのレベルで走るにはスピードの出る体が必要。そして、ワールドカップでは予想以上の快走ができたものの、その後の期間は疲労回復と調整にあてざるを得なかったため、そのままの体で今年のスパルタスロンに臨むことになった。
 9月は1週目にオランダで100km、翌週に丹後で100km。その後1週間空けたものの、どれだけ疲れが残っているか不安なままのギリシャ入りとなった。


2007 スパルタスロン


 今年もヨーロッパ経由でギリシャ入り。アテネ近郊の選手村ホテルに到着したのは現地時間の深夜0時。25時間の長旅だった。時差ボケにならないよう、そのままベッドに入って寝ることにした。2人部屋に簡易ベッドを詰め込んでの4人部屋。今年は別のホテルにあてられることなく、しかも日本人だけの部屋になったのでほっとした。
 翌朝もちゃんと日の出とともに起床。飛行機の中でも寝ていたせいかあまりよく寝れなかったけど、現地のリズムに合わせるため、軽く散歩にも出かけた。走りに出てきた日本人も多く、久しぶりに会う人たちもいた。そして今日はしっかり食べる。最近は内臓など体の芯に疲労が残っているからなのか、いまいちお腹の消化がよくない気がしていた。飛行機移動でも思った以上に疲労したようで、少し気持ち悪くなってしまった。そこで、前日の今日はしっかり燃料補給しておかないととても走りきれないと感じたので、特に朝と昼にしっかり食べておいた。

 大会前日は受付と説明会。チェックポイント(CP、エイドステーション)に預けておく荷物も準備しておかなければいけなかったので、今日はそれらの準備と久しぶりに会う人たちと話をしたりでのんびり過ごした。
 今年預けたものは以下の通り。
  ・ 81km(コリントス) : 味噌汁の元、サプリ類
  ・ 124km(ネメア) : ヘッドライト、反射板、胃薬、味噌汁の元、サプリ類
  ・ 148km(リルケア) : 長袖Tシャツ、電池、サプリ類、イワシ缶詰
  ・ 202km(テゲアの先) : サプリ類(ライトと長袖をスパルタに送る用)
 今年も預けた荷物は少ない。どうせ食べたいものはその時々によって変わるから予想できないし、せっかくなら現地のものを食べたいので、毎年必要最低限のものだけにしている。
 そして今日は午後8時過ぎに就寝。ホテルの食事を待っていると遅くなりそうだったので、スーパーで買ってきたお菓子のようなものを体に蓄えた。

・スタート〜序盤

 スタートはパルテノン神殿の下、朝7時。朝食が5時からで、ホテルからのバスが6時に出る。今日は4時前に起き、食事は5時より少し早くに食べられた。準備をしながら、いよいよ気持ちが高まってくるのを感じた。
 真っ暗な中、バスはアテネ中心部へ。スタート30分ほど前に到着した。みんなスタートを待ちながら、記念撮影などで思い思いにスタートのときを待った。

 

 朝7時近くになって、ようやく空が明るくなり始めてきた。まだ満月が空に浮かんでいる。そしていよいよ。赤く染まり始めた空の下、2007年のスパルタスロンがスタートした。

 

 まず石畳をずっと下って行き、アテネの市街地を抜けていく。さすがに交通量が多いが、初めの部分は交通規制をしてくれている。始めはペースがよく分からないけど、気持ちが高ぶってオーバーペースになってしまわないように気をつけながら進む。

 今回は、81kmコリントスの主要CPまで1km5分程度のペースを目安とした。去年と同じペース。
 まず約5kmで始めのCPを通過。25分くらいかかったようなので、ほぼ予定通りのペース。疲労の抜け具合を心配していたけど、脚は重くなく軽すぎもなくて感覚的にちょうどいい。

 

 そしていきなり小高い丘を越える。まだ序盤でゆっくりなので余裕はたっぷりだけど、息を切らさないくらいゆっくり余裕を持って進む。10km地点付近で頂上をむかえ、一気に下って海沿いに出る。この下りは毎年高速道路のように車が飛ばしていくけど、今年は一車線規制されていて車は渋滞気味だった。背中から朝日が照らす。いい天気だ。

 

 しばらく工業地帯の海沿いを進む。そろそろ周りのペースも落ち着いてきて、自分の位置取りが決まり始める。でも自分はどの辺の位置で走っているんだろう?今年は日本人に全然会わないし、結構前の方にいるのだろうか?
 20kmを過ぎると、産業道路から遺跡のある小さな町に入っていく。毎年子供達が賑やかに迎えてくれる。 あっ、子供達の賑やかな声が聞こえるぞ。今年も大勢で賑やかに迎えてくれている。今年はここまで落ち着いて走ってきたけど、ここでは少し調子に乗ってハイタッチで応える。

 

 この先は町を時々しか通らず、あまり人がいないところを走るようになる。大きな石油タンクが並ぶ間を抜け、多少のアップダウンを越えると、いよいよ美しいエーゲ海が見えてくる。「あぁ、今年もスパルタスロンにやってきたんだ」と感じる瞬間だ。海面が日差しに照らされていて眩しい。そしてこの先しばらくは、多少のアップダウンがある景色のきれいな海沿いを走る。あっ、そして日本人の応援ツアーの人たちだ。うれしくて力をもらえる気がする。そして、そこで自分が日本人の先頭を走っていることを知らされた。

 

・序盤〜コリントス(81km)

 30kmを通過した。2時間30分ほどでほぼ予定通り。まだまだ抑えている感覚もあり、順調。それにしてもいい天気だ。この先、今年も必ず暑くなるはずだ。暑くなる前に距離を稼いでおきたい気持ちはあるけど、このペースなら十分だ。

 

 この先は海沿いではあるものの、海は見えず時々小さな町を抜けながら進む。ぶどう畑も現れ始め、40kmを通過していく。この先には、さらに美しい海の景色が待っている。

 

 CPは3〜5kmおきくらいにあり、そこで水分や固形物を補給できる。水やジュース、コーラからバナナ、オレンジ、りんご等のフルーツ類、チョコ、ポテトチップ、ビスケット、蜂蜜トースト等の軽食など、日本のマラソン大会とは少し違うけどいろいろある。今回は、特に水分は早めに多めに補給。去年の脱水症状気味になってしまった反省があるから。固形物も早めに少しずつ補給。お腹の消化能力がいまいちのままギリシャに来た気がしていたので、お腹に負担をかけないように少しずつ。そして今回気に入ってしまったのがビスケット。少し甘いビスケットと、塩味のビスケットを毎回少しずつ手に取って、少しずつ食べながら走った。手に持って走ってもべたべたしないし、甘すぎなくて食べやすい。今回初めての試みになったけど、この補給はなかなかよかったのではないかと思う。

 さて、エーゲ海。青い海に青い空。去年は、ここで去年2位になった日本人の第一人者のランナーが後ろから来たんだっけ。去年まではきれいに写真を撮るために立ち止まったりしてペースを乱してしまったけど、さすがに今年はそろそろ写真はそこそこでいいから、ペースを乱さないようにまだまだ落ち着いて走る。アップダウンも微妙な感じでちょっと大変。

   

 50kmを通過。4時間10分をほんの少し上回るくらいで予定通り。去年より余裕がある気もする。去年はこの辺りからかなりの暑さを感じるようになった。今年も暑くなってきた。ただ、去年より汗のかき方は少ない。その代わりか、用足しが非常に多い。わざわざトイレを探していくわけではないのでロスはほとんどないけど、どういうことなんだろう?
 去年は大量に汗をかいていたのでデジカメが汗まみれになり、この辺りで壊れてしまった。でも今年はまだ平気だ。そろそろ周りのランナーがペースダウンしてきたようで、少しずつ抜かしていく。自分のペースは変わっていない。
 60km過ぎ。抜かし続けたランナーの波が一段落した。ついに5番目まで上がってきたようだ。各CPでは、通過したランナーのゼッケン番号と通過時刻を記録しているので、その記録簿を見ると自分の順位と前のランナー達との差が分かる。まだ順位などを気にする場所でもないのであまりよく見なかったけど、自分の位置取りを知りたかったので少しだけ見た。

 そしてここで、少し自分の目を疑うようなものが見えてきた。あの後ろ姿は去年のチャンピオンのアメリカのスコットじゃないか?去年は唯一見かけなかったくらい初めからぶっちぎりだったし、ここまで自分がペースを上げたわけじゃないのに、なぜ彼の姿が見えてくるんだ?スコットのペースが落ちているのは間違いないと思うけど…。どういうつもりなんだ?

 

 とりあえず追いついてみた。そして、話をしてみたかったので話しかけてみた。笑顔で気さくに答えてくれた。とてもいい人だ。エイドでもスポンジを取ったりして多少足を止めるし、汗のかき方からして暑さで少し疲れてきたようにも見えた。そこで自分はペースを変えず、走り終わった後でまた話がしたいと言い残して前へ出ることにした。後から振り返ると、この判断が一つの鍵になったかもしれない。
 石油工場?を抜けて70km過ぎ。目の前にはフィンランドのパシが見えてきた。彼は今年のさくら道2位で、その時に仲良くなった1歳下のランナー。向こうが自分のことをとても意識しているようにみえる。ちょっと彼にしては飛ばしすぎなんじゃないか?追いついたときにお互い写真を撮り合ったり、少し話をしたりした後、コリントスに向けての長い上り坂で追い抜いた。

 

 コース上での一つの見所である世界遺産のコリントス運河。昔の人が掘ったものすごく深い運河で、とても手作業で彫ったとは思えない素晴らしいものだ。運河にかかる橋には観光客もたくさんいて、観光客をかき分けるように走っていく。目の前の上り坂の先がコリントスの主要CP。そこでは日本協会の人たちのサポートもいてくれるはずだし、小休止する予定だ。去年はこの上り坂がきつかったけど、今年はまだ余力がある気がする。

 

 81kmのコリントスCP到着は、全体の2番目で予定通りの8時間40分ちょっと。ほぼ1km5分ペースで来た。去年とほとんど同じペースだけど、疲れ方が全然違う。今年はまだ平気。早めにエネルギーをたくさん補給し、少しでも負担を減らして消化できるようにちょっと時間をとって休憩。そろそろ暑さを感じるようになってきた。前のランナーとは10分くらい差があるようだし、あせらずここでもう一度仕切り直しだ。ちょっとペースを落としてじっくり落ち着いて走っていくことにする。
 この先は景色も一変し、ぶどう畑の広がる、少し寂しいような広大な地域を走ることになる。ちょうどステージが変わるみたいで、気持ちもリフレッシュできる。

 

・コリントス〜ネメア(124km)

 さっきまで結構余裕があったのに、急にとても暑くなってきてちょっと疲れてきた。徐々にCPで休む時間が長くなる。まだ時刻は14時過ぎ。もうあと2時間くらいは一番暑い時間帯なので、ちょっと疲れるのが早いぞ。涼しくなり始めるまでの時間帯をどうやってやり過ごすか?90km辺りから、いよいよ上り坂では歩きが入るようになってきた。

 

 古代コリント遺跡を越え、広大なぶどう畑の間を抜けていく。暑い、暑い。あまりないけど、できるだけ日陰を選んで走る。暑さによる疲労に加えて脚も重たくなり始めてきた。毎年ここ辺りで出るぶどうを楽しみにしていたけど、今年はお目にかかることができなかった。エイドでは完全に座り込んでしまう。

 

 ようやく100kmに到着した。時間は8時間50分くらい。時計だけ見ると上出来。だけど、エイドで休み時間がかなり長くなってきたし、余力もなく走るペースが落ちてきているのでかなり苦しい状況だ。エイドで休んでいたら後ろからスコットが一気に抜かしていった。脇目も振らない感じで彼もかなり暑いのかもしれないけど、走り自体はとてもいいように見えた。あぁ、あれがチャンピオンの走りなんだろうな。あそこでペースを落としたのも作戦だったんだろうな。甘かったなぁ。
 まだまだ涼しくはならず、さらに苦しい状況になってきた。エイドで休むたびに後ろから抜かれていく。日本人にも抜かれる。あっちはいい走りをしているように見えた。とても追いつける気はしないので頑張ってもらいたい。

 110km付近から一気に上り始める。ただでさえ歩きが入っているし、急な上りになると全く走れず完全に歩いてしまう。「まいったなぁ。まだ半分来てないよ。」去年も似たような状況だったけど、去年は脱水症状気味だっただけで脚はまだ平気だった。なので涼しくなったら復活できる気がしていたけど、今年は脚が重くてきつい。特にふくらはぎの筋肉に力が入らない。筋肉の疲労ではそう簡単に復活するとは思えない。
 1km5分を上回るようなハイペースで走るときにはふくらはぎよりハムストリングスをよく使って走る気がする。だけど250km走るときには、そのハイペースでは体の他の部分が持たない。それより遅い今回のようなペースではふくらはぎをよく使うし衝撃も受け続ける気がする。今年は100kmワールドカップに向けて速いペースで走りこんできたので、ゆっくり走るときによく使う筋肉は鍛えられていなかったかもしれない。また、最近の連戦の疲労がここで出たのかもしれない。でも、今さらいろいろ考えても仕方がない。今はとりあえず前に進んでいくだけだ。
 どうせ歩いているので、汗などで汚れたサングラスを拭こうとしたそのとき「ポキッ」。サングラスが壊れた。やっぱり2000円の安物はこんなものか。

 

 大変な上り坂を越え、辺りには何もないところをネメアに向けて進む。ネメアではぶどうをたくさん作っていて、ワインの産地にもなっている。そして2つめの主要CPになっている。エイドとしても大きくて賑やかで、毎年長居してパスタをもらって食べている。今の状況では、とりあえずネメアまで頑張ろう、といった感じだ。

 

 辺りは一面のぶどう畑。そして徐々に日が傾いてきた。この風景は美しい。だけどいよいよ走っている時間より歩いている時間の方が長くなってきた。しかも走っても歩く速さとあまり変わらない。苦しい。日本人の応援の車が通り過ぎるときに声をかけてくれるのがかなり励みにはなったけど、もうきついし情けないしで申し訳ない。脚に力が入らないのだ。
 ここで、ふと時間を計算してみた。まだ制限時間まであと24時間ちょっとある。これは時速5kmで歩き続けられれば完走はできるのではないか?何だか少しほっとした気がしたけど、次の瞬間、あと120kmも歩き続けることを考えると絶望にも似た気持ちになった。そんなに精神力が続くわけがない気がする。しかもこの先には大変な上り下りが待っているので、そんなに簡単な話ではないことは分かってもいる。まぁ、でもとりあえずはネメアまでだ。あそこに着いてからそのあとのことは考えよう。

 もうすぐネメアと思われるところで、ようやくチームメイトのランナーが後ろから来るのが見えた。もう少し早く来るかと思っていたけど、あまり情けない姿を見せ続けないように、追いつかれないように少し頑張ってみた。追いつかれても頑張って付いていった。そしてネメアまでは何とか併走して到着することができた。ちょっと小休止だ。脚はダメでも食欲はしっかりあった。結構しっかり盛られたパスタを2杯ももらった。おいしかった。

 

・ネメア〜サンガス山(160km付近)

 ネメアで座って休みながら、何人ものランナーが先へ走っていくを見送った。自分もそろそろ行かないといけない。ずっとここにいるわけにはいかないのだ。預けておいたヘッドライトと反射板などの夜間装備を持って、この先もあまり走れないかもしれないけど、とりあえずエイドからは出発することにした。いよいよ日が暮れようとしている。
 ネメアを出ると、いきなり一つ丘を越える。初めて参加した2年前はここではすでに夜で、きれいな星空に感激しながら坂を下って行った。そのときはホテルが同室だった人にそこで追いつき、話をしながら走っていたことなどを思い出す。今年で3回目にもなり、いろいろな風景を見るたびにこれまでのことをいろいろ思い出したりもした。去年もこの先、じゃり道に入る頃に真っ暗になってヘッドライトを点けた。今年もほとんど同じタイミングだ。

 

 じゃり道には周りに明かりは全くなく、ヘッドライトだけでは凸凹な足元が見にくくて走りにくい。もっとも、徐々に上っているせいもあってほとんど走れてはいない。時々大会関係と思われる車が通るときに、そのライトでよく見えるくらいだ。足元が見えるそのときだけ多少頑張って走っていた。今年は去年より舗装されている部分が少し増えていた。
 未舗装路が終わると、月が出てきた。今夜はほぼ満月で、月明かりが明るい。外人のランナーはライトを点けずに走る人も結構いた。突然暗闇からあらわれるからこっちはびっくりした。さすが日本人はきっちりライトを点けて走っている。暗闇の中にライトが揺れているのが見えると、ランナーがいることが分かる。

 ほとんど走れないながらも何とか長い上りを終え、下りになると一応走れるようにはなっていた。とはいっても回復したというより、つぶれてからここまで下りがなかったからというだけだと思う。小さな町に着いたけど、そのエイドではたくさんの子供達が賑やかにむかえてくれた。大半は英語が話せずギリシャ語しか話せないみたい。それでも英語が話せる子供が寄って来て「名前は?」とか「どこからきたの?」とか聞いてくる。英語が話せないでもじもじしている子にも「カリスペーラ」と言ってあげるとちょっとうれしそうだった。

 

 もう少し下り、今度はオレンジ色のライトが並ぶハイウェイから少し離れた道を進んでいく。ここでしばらく平坦。そしてこのオレンジ色の光があの先の山を越えるために上り始める頃にこっちも一気に上り始める。その上り始めるところにあるのがリルケアの村。ここが大きなエイドになっているので、またとりあえずここを目標に頑張る。やっぱり平坦な道でも走るのがきつくなっている。走ったり歩いたり。走れていないため、少し寒く感じるようになってきた。

 何とか148.5km地点のリルケアに到着。日本協会のサポートがいてくれたので、しばらくマッサージをしてもらった。でも、正直とても復活するとは思えない。本心はもうやめにしたい。ここに着いたら止めようと思ったりもしていたくらいで、かなり気持ちが切れそうになっていた。それでも、応援の声を聞くたびに自分から止めるとは言い出せず、密かに時間切れを期待するようになっていた。それなら精一杯頑張ったから仕方がない、と言い訳が出来ると思った。でもここのエイドの制限時間まではまだあと4時間くらいある。時間までは歩き続けるしかないか。食欲はあるので、食べるだけはしっかり食べて、ここに預けていた長袖Tシャツを中に着て、仕方ないから先へ行こうと思った。そこで、ちょうど後ろから次のチームメイトも追いついて来た。いい調子で来ているようだ。そして、すぐ後ろからもう一人やってくると聞いた。みんな頑張っているんだ。行くか。ところが、立ち上がろうとしても立ち上がれない。体が拒否している。それでも気合を入れて思い切って何とか立ち上がって歩き始めた。再び暗闇に向かって。

 しばらく頑張り、次のエイドを過ぎると2人のチームメイトに抜かれた。とても付いていけない。もう少し辛抱すればまだいけるからと声をかけてもらい、「何とか頑張ります」と応えてはみた。それでも、置いていかれると気持ちが少し切れて、また歩き始めてしまった。山を越えるように伸びるオレンジ色の灯かりの列を見上げながら、いよいよつづらの上り坂が始まった。毎年ここは走れず歩いて上っているけど、今年はさらにその歩みは遅い。歩みが遅いと眠くもなってくる。時々少し蛇行しながら上っている気がした。でもその広くない道の片側は柵もないがけ。あまりふらつくわけにはいかない。今年は月明かりが明るいので、上っていくにつれて谷の下のほうまでよく見える。歩いてとはいえ、かなりの坂を上ってきたんだなぁ。
 上り坂の途中にもエイドがあるけど、そのCPの閉鎖時間に目が行ってしまう。まだあと3時間以上ある。時間的にはこの先のサンガスの山越えくらいはできてしまうか。ハイウェイの上まで上ってくると、いよいよサンガスのふもとのエイド。ここで山越えに備える。気温はさらに下がってきたように感じられる。温かいスープを2杯もらった。

 

 この走れていない状態。そしてこの装備では山では寒いかもしれない。でも、何だかもう体も気持ちも疲れて、なげやり気味、あきらめ気味になっていて、「べつにいいや」と思ってしまっていた。そして、2年前間違えたサンガスの登り口を間違えないように、いよいよサンガスの山登りへ。
 そんな状態なので、もう急ぐ気持ちのない山登りだ。それでも、とてもハイキング気分にはなれないほどのきつくて大変な山で、気合を入れていかないとこの岩山は登っていけない。少しでも気を抜くとがけから落ちてしまいそうだ。眠くてうとうとなんてもってのほかだ。自然に目が覚めてきた。コース上の所々に置かれたライトを頼りにある程度登っていくと、あのハイウェイの明かりがはるか下に見える。頂上まではもう少しだ。ゆっくりだけど休まずには登ってこれた。

 

 普通、脚が疲れてくると筋肉が硬くなって動きが鈍くなるので、マッサージやストレッチをして柔らかくする。ところが、今回はふくらはぎの筋肉が伸び切ってしまったような状態で、筋肉が収縮できないみたいだ。だから力が入らないのだけど、これではマッサージをしても仕方がない気がする。どうすればいいんだ?こんなふうに悩んだのは初めて。だからもうあきらめかけていたんだけど。

・サンガス山〜テゲア(195km)

 サンガスの下りは富士山の下りにも似た、急な砂地のつづらおり。ブレーキをかけ続けないと転がり落ちてしまいそうで、所々に大きな石も転がっているので、足にぶつかると痛い。真っ暗な中のヘッドライトだけでは怖い。今年はもうゆっくり慎重に下りていく。そしてようやく砂地が終わり、下りきった。エイドで一休み。そろそろチョコレートがほしくなってきた。
 そこから少し下って行った後は山あいの平坦なところを行く。下りで走っていた勢いでそのまま走り続ける。あれっ?何だか長いこと走り続けられているぞ?どうしたんだ?よく分からないけど、走れるんだったら走れるだけ走り続けてみよう。多分またすぐに走れなくなるんだろうけど。
 少し行って、小高い丘を上るとそこはネスタニの村。この上りは歩かずに走りきれたぞ。どうなっているんだ?よく分からないけど走れているぞ。ここも比較的大きなエイドで、日本人もいてくれてほっとしたけど、走れてきたから徐々に気持ちが高まってきたのでその勢いを止めないように、あまり長居せずに先へ行く。このリズムで行けるだけ行ってやるぞ。

 この先は平坦で単調なところを進む。何もないから星がきれいに見える。逆に星を見るくらいしかすることがない。でも今年は月が明るいので、去年ほどは星がきれいではなかった。
 サンガスを下りたときには25番目あたりを走っていたけど、走れるようになってどんどん抜き返し始めた。日の出は朝7時くらい。あと2時間ちょっと。キロ6分ペースで走り続けられればテゲアの村辺りで夜が明けるだろうか。2年前より10分遅いくらいか。その先もそれなりに走れればあの時と同じくらい、30時間切りはできるだろうか?でも今日の自分の足は、いつまた止まってしまうか分からないから油断できない。

 夜中のこの辺りを走っていると、去年や一昨年のいろんなことを思い出す。併走したこと、迷子になったこと、等々。今年も道を間違えてしまうのが不安だったけど、道に書かれた矢印を注意して見ていたので、何とか迷わずに済んだ。そしてテゲアの村に着くと、徐々に空が青くなり始めてきた。調子はますますよくなってきたので、エイドでもほとんど止まらない。そろそろ日本人にも追いつけそうだ。

 

・テゲア〜スパルタ(245km)

 この先、景色ががらっと変わって新たなステージが始まるみたいだ。連なる山の中をダイナミックに上り下りするタフな道のりだ。ようやく日本人に追いついた。ここまでの外人に比べるとちゃんと走れている。
 ここまでは平坦だったから一気に走ったけど、ここからはアップダウンでまだあと50km近くあるので、無理せず慎重に走っていくことにする。熱く冷静に、だ。始めの2km以上は続いているだろう長い上りも走りきった。この先日本人を何人か続いて追い越した。みんなちょっと驚いているようだった。よく復活したな、と。

 

 完全に夜は明けて明るくなってきたけど、息はまだ白い。温かくなるにはもう少しかかるかもしれない。リズムは変えたくないので、ライトは消してもヘッドライトは頭につけたままで走る。
 そして210km付近。なんと、始めに抜かれたチームメイトがエイドにいた。ちょっと疲れたみたいだ。でも話した感じは元気そうだったので大丈夫だろう。そろそろ夜間装備を外して、スパルタまで送ってもらうようにエイドの人にお願いした。これから一気に暑くなってきそうだぞ。

 

 アップダウンが続くので気は抜けないけど、同じような景色が続くので頭の中は真っ白に近い。ただ疲れて何も考えられないだけかもしれないけど。2年前はこの辺から激しい雨が降ってきて寒かったなぁ。でも、今年は同じくらいの時間でも雲ひとつない青空で全く雨なんか降りそうにない。逆に暑くなり始めてきた。

 

 だんだん順位も上がってきて、そろそろ一桁順位が見えてきた。そろそろ10番目。前との差はどんどん詰まっているけど、特に上り坂の後では一気に詰まる。自分は上り坂でも走れているけど、たぶん他の人はあまり走れていないんだろう。自分も去年まではそうだった。その前との差が詰まる様子が走るモチベーション。景色はダイナミックですごい。日本ではありえないような景色だ。

 

 いよいよ9番目に浮上。このペースで走れていれば後ろから追いかけてくる人はいないだろうけど、一応油断はできない。もう一人くらいは抜けそうなので、そこまでは頑張っておきたい。
 そして、ついに8番目に浮上。ちょっとほっとしたのか、さすがに疲労を感じ始めた。少しペースを落とすことにしよう。走りの切れがなくなってきたことは明らかに感じられる。もう一つ順位を上げるのは難しそうだ。1時間くらいの差がある。この位置をキープで十分だ。

 

 スパルタまであと15km。早くもパトカーがやってきた。後ろにぴったりつかれ、ウイニングランの雰囲気だけど、まだあと10km以上ある。ちゃんと右側を走るように言われるし、何だか落ち着かないぞ。
 あと10kmを切って一気に坂を下っていくと、いよいよスパルタの町が見えるようになってくる。もうかなり暑くなってきたのでエイドごとに水をかぶる。また、脚はもう限界近くなってきたので下りが終わったらまた歩いてしまうかもしれない。でも今年はあの町の中でも走っていたいなぁ。
 あと5kmくらいになると家が増えてくる。ここまでにも車からはクラクションで応援してくれていたけど、いよいよ子供達や町の人たちが声をかけて迎えてくれる。とってもうれしい時間の始まりだ。
 そしてやっと下り坂が終わって平坦に。かろうじて走れている。最後の橋を渡って、いよいよ家がますます増えてきたところで最後のエイド。残りあと1.8km。自転車に乗った子供達がたくさんいる。横についてくれているのはパトカーから白バイに変わっている。最後の最後に携帯電話用ポーチをウエストポーチにつけていた安全ピンが壊れ、白バイの警官が携帯ポーチを持ってくれようとしていたけど、ここまできたらもう走りにくくてもいいから手に持って走る。

 

 今年もスパルタの町ではとても温かい出迎えを受ける。このために走ってきたといっても過言ではない。そしていよいよ、あの交差点を曲がるとレオニダス像が見えてくる。
 さぁ、あとはこの直線を進むだけだ。沿道には人がいっぱい。レオニダス像に近づくと、アナウンスも入る。知った顔も見えてきた。夜中のつらかったことはすっかり忘れ、もう、ただただ感激。やった〜!

 

 
 

 レオニダス王の足にタッチしてゴール!ここで撮ってもらった写真をあとでもらえることが分かっているので、しばらく笑顔でそのままのポーズで止まっていたけど、強い日差しに照らされてその足は熱い。まともには触り続けていられない。そしてやはり今年もカップで水を飲まされる。月桂樹の冠をかけられ、完走証を渡される。今年は去年までのメダルではなく、きれいなプレートだった。もう、最高の瞬間だった。

 感動覚めやらぬ中、救護テントに連れて行かれ、マッサージをしてもらう。しばらくベッドに横になったけど、早くホテルに行って汗を流したかったので、あまり遠くはないけどタクシーでホテルに連れて行ってもらう。ひとまず今年のスパルタスロンは終わった。

・ゴール〜表彰式




<ラップタイム等の記録>

CP 距離(km) 通過時刻 通過タイム 2006年 2005年
アテネ 0 7:00
13 50.0 11:07 4時間07分 11:09 11:43
22 コリントス 81.0 13:42 6時間42分 13:43 15:01
28 100.5 15:48 8時間48分 15:37 17:21
35 ネメア 124.0 18:51 11時間51分 18:31 20:09
43 リルケア 148.5 22:49 15時間49分 21:34 23:11
49 164.3 3:17 20時間17分 0:39 2:44
52 ネスタニ 172.0 4:16 21時間16分 1:38 3:37
61 198.4 7:11 24時間11分 5:18 6:57
70 230.1 10:09 27時間09分 8:56 10:54
75 スパルタ 245.4 11:36 28時間36分 10:38 12:37

区間 経過時間 ペース
スタート〜81km 6時間42分 4分58秒/km
81km〜164.3km 13時間35分 9分43秒/km
164.3km〜245.4km 8時間19分 6分09秒/km